医学分野における初期の研究の一つとして,血漿中のHIV-1ウイルス検出に近赤外分光法を用いています(Sakudo et al. 2005)。 本論文ではELISA法で得られた結果との良好な相関が得られました(R2=0.7319, SD/SECV=1.856, SECV=23.33 pg/ml)。このことから、近赤外分光法はHIV-1感染症のみならず、他のウイルス性疾患の迅速かつ高精度なスクリーニング法として有用であることが示唆されました。
また、画期的な研究の一つとして、水のスペクトルパターン変化に基づく紫外線に誘発されたDNA損傷の検出があります(Goto et al. 2015)。
本論文では、DNAの3次元形態の超低濃度の非侵襲的な同定と測定という発見を紹介しています。たとえ少量でもDNA構造の近傍では水分子システムが著しく異なることが示されました。
低濃度(5〜20μM)DNA溶液中では強く水素結合した水が減少するのに対して、UV誘発シクロブタンピリミジンダイマー( CPD, cis-syn T<>Ts )(0.77–3.0 μ M)の形成により、我々の先行研究にて発見した強く水素結合した水が増加することを示唆しました。さらに本論文では、このような極低濃度でも、UVC曝露したDNA水溶液にて単離されたDNAおよびcis-syn T <> Tを近赤外分光分析により定性的および定量的に検出できることを明らかにしました。UV放射(0-20kJ / m3)を、水のスペクトルパターン、つまり水の共有結合の強度と水分子システムのコンフォメーションに誘発される変化によって、間接的に測定できることが初めて示されたのです。
この論文は、分光手法と分子生物学に新たな道を切り開き、生命の分子レベルでの物理化学的性質や生物物理学に多くの洞察を与えるものです。
アクアフォトミクスは、外用薬の効果のin vivoモニタリングにも提案されました(Matija et al.2013、Matija et al.2017)。また水質モニタリングでの成功と同様の総合的アプローチが透析効果のモニタリングにも提案されました(Munćan et al.2016)。このことによりアクアフォトミクスの新たな応用先が治療効果のモニタリング分野で芽生えました。
Goto, N., G. Bazar, Z. Kovacs, M. Kunisada, H. Morita, S. Kizaki, H. Sugiyama, R. Tsenkova, and C. Nishigori. 2015. “Detection of UV-induced cyclobutane pyrimidine dimers by near-infrared spectroscopy and aquaphotomics.” Scientific reports 5.
Matija, L., J. Muncan, I. Mileusnic, and Dj. Koruga. 2017. “Fibonacci nanostructures for novel nanotherapeutical approach.” In Nano-and Microscale Drug Delivery Systems, 49-74. Elsevier.
Matija, L., R. Tsenkova, J. Munćan, M. Miyazaki, K. Banba, M. Tomić, and B. Jeftić. 2013. “Fullerene based nanomaterials for biomedical applications: engineering, functionalization and characterization.” Advanced Materials Research.
Munćan, J., I. Mileusnić, V. Matović, J. Šakota Rosić, and L. Matija. 2016. “The prospects of aquaphotomics in biomedical science and engineering.” Aquaphotomics: Understanding Water in Biology – 2nd International Symposium, Kobe University, Kobe, Japan, 26-29.12.2016.
Sakudo, A., R. Tsenkova, T. Onozuka, K. Morita, S. Li, J. Warachit, Y. Iwabu, G. Li, T. Onodera, and K. Ikuta. 2005. “A novel diagnostic method for human immunodeficiency virus Type‐1 in plasma by near‐infrared spectroscopy.” Microbiology and immunology 49 (7):695-701.