日時
2024年11月16日(土) 10:00~12:00
場所
内容
1. アクアフォトミクスのいまと未来
講演者:ツェンコヴァ・ルミアナ (神戸大学)
2. 我々はなぜ水がなければ生きられないのか?
講演者:白神 慧一郎 (京都大学)
3. 美と健康の海洋深層水
講演者:長舩 洋子 (ドクターリセラ株式会社)
4.「水」を活用した新たなインフラメンテナンス技術
講演者:田村 悟士 (株式会社アイゾールテクニカ)
5. アクアフォトミクスという科学に魅せられて
講演者: 重岡 昌吾 (株式会社重岡、ゆの里)
6.「Pale Blue Dot君が微笑めば、」映画の紹介
講演者: 西嶋 航司 (映画監督)
映画「Pale Blue Dot君が微笑めば、」の公式サイト
対象
水に興味のある方はどなたでも参加できます。
参加費
現地・オンラインともに無料(要事前登録)
事前登録
登録:https://forms.gle/2ZsUMMUmEJjC46ed7
アクアフォトミクスとは?
アクアフォトミクスは、神戸大学農学部生体計測技術研究室(当時)のツェンコヴァ・ルミアナ教授によって提唱された新しい学問分野です。この分野は、「水」が持つ役割と、その分子構造の変化を光を使って研究することを目的としています。水は、私たちの生命や環境において非常に重要な存在であり、その変化を捉えることで、私たちの体や自然環境の状態を知る手がかりを得ることができます。
アクアフォトミクスは、光(電磁波)に対する水のスペクトルパターンにどのように現れるかを研究します。水のスペクトルパターンは、水が存在するシステム(植物、動物、食品など)全体を反映するまるで「分子の鏡」のようにふるまうので、そのシステムの状態を非破壊的かつリアルタイムで評価し、様々な業界において革新的な方法を提供しています。
動物の病気診断
アクアフォトミクスは、動物の健康管理や病気の早期発見において、革新的な技術として注目されています。この技術では、動物の血液や尿、ミルクなどの体液に含まれる水分子コンフォメーションのスペクトルを非侵襲的に分析し、健康状態や病気の兆候をリアルタイムでモニタリングすることができます。
代表的な応用例として、乳牛の乳房炎の早期診断が挙げられます。乳房炎は乳牛にとって深刻な病気ですが、ミルク中の水分子の変化をアクアフォトミクスを用いてモニタリングすることで、発症の初期段階で検出でき、速やかに治療を開始することが可能です。これにより、病気の進行を抑え、治療コストを削減できるだけでなく、牛の健康と生産性の向上にもつながります。さらに、尿や血液のスペクトルをアクアフォトミクスで解析することで、乳房炎以外の病気や栄養状態も把握でき、家畜全体の健康管理に役立つことができます。
また、アクアフォトミクスは、絶滅危惧種の保護活動にも大きく貢献しています。例えば、ジャイアントパンダやオランウータンなどの希少動物の尿を分析し、ホルモンの変化や繁殖期、健康状態を非侵襲的にモニタリングすることができます。これにより、繁殖期の把握やストレスの兆候を早期に検出し、従来の手法では困難だった生理的変化も容易に確認することができます。この技術を活用することで、絶滅危惧種の繁殖支援や長期的な健康管理が効率的に行えるようになり、動物保護における重要な役割を果たしています。
食品・農業分野
アクアフォトミクスは、食品や農業分野での革新的なツールとして注目されています。食品において、水分は鮮度や品質に直接関わる重要な要素です。アクアフォトミクスを使用することで、食品中の水の吸収スペクトルを非破壊的に分析し、鮮度や保存状態をリアルタイムで評価できます。これにより、果物や野菜の熟成度や劣化の兆候を早期に検出でき、品質管理がより精密かつ効率的に行われます。さらに、加工食品においても、成分や保存性を評価し、消費者により良い製品を提供することが可能です。
農業分野では、アクアフォトミクスが作物の健康状態や水分ストレス、病気の早期発見に役立ちます。水分の変動を正確に捉えることで、作物の成長に最適な灌漑タイミングの決定や、病害の初期段階での検出が可能になります。これにより、作物の収穫量を最大化し、農薬や化学肥料の使用を抑えた持続可能な農業が実現します。また、土壌や灌漑水の性質をモニタリングすることで、環境に優しい農法の実践が促進され、全体的な農業プロセスの効率化を図ることができます。
この技術は、水が中心的な役割を果たすため、食品の安全性や栄養価、農業の持続可能性を向上させる大きな可能性を秘めています。アクアフォトミクスを活用することで、食品業界や農業従事者は、これまで困難だった水の状態やその変化を詳細に分析し、品質向上や効率化を図ることができます。
美容や健康製品
アクアフォトミクスは、科学的に肌や体の水分状態をモニタリングできる技術として、美容や健康製品の開発に革新をもたらしています。水は肌や髪の健康に重要な役割を果たしています。近赤外分光法とアクアフォトミクスを組み合わせることで、皮膚や髪の状態を非侵襲的で測定し、美容製品がどのように働いているかを科学的に証明でき、保湿効果やアンチエイジング効果を的確に評価することが可能です。
例えば、スキンケア製品に関しては、アクアフォトミクスを使って肌の水分量やバリア機能の変化を詳細にモニタリングでき、アレルギーや乾燥肌の予防や、個々の肌タイプや年齢に応じた最適な製品開発が可能になるでしょう。さらに、サプリメントや健康食品に関しても、体の状態を評価し、製品の効果を科学的に証明することが可能です。
アクアフォトミクスを用いることで、消費者は自分に合った製品を選びやすくなり、企業は信頼性の高い商品を提供してブランド価値を高めることができます。アクアフォトミクスは、個々の消費者が求める「確かな効果」を科学的に裏付けるための強力なツールとなり、今後の美容・健康業界においても注目される技術となるでしょう。
土木工学・建設
アクアフォトミクスは、土木工学や建設分野において革新的な技術として注目されています。コンクリートは水との化学反応によって硬化し、その強度や耐久性は水分状態に大きく依存しています。アクアフォトミクスを使用することで、コンクリート混合時や硬化プロセス中の水分状態をリアルタイムでモニタリングでき、品質を最適化するための科学的なデータが得られます。特に、コンクリートの硬化過程における水の分子構造の変化を捉えることで、最適な混合比や硬化条件を維持することが可能となり、コンクリートの強度や耐久性を向上させることができます。
また、建築物やインフラのメンテナンスにおいても、アクアフォトミクスは有効です。水分が建材に浸透すると、コンクリートや鉄筋の劣化を引き起こす可能性があります。アクアフォトミクスは、コンクリートの内部構造における水分の変化や浸透を検知することで、建物や橋梁などの早期劣化を発見し、メンテナンスの最適なタイミングを判断することに役立ちます。この非破壊的なモニタリング手法により、構造物の寿命を延ばし、補修や修繕のコストを削減することが期待されています。
アクアフォトミクスは、建設、コンクリート製造、インフラ整備における効率化と品質向上の鍵となる技術です。水の分子レベルでの挙動を詳細に解析することで、材料の性能を最大限に引き出し、安全で長寿命なインフラの開発に貢献します。今後、この技術は土木工学や建築業界において、より広範な応用が期待されており、建設業界における新たな技術革新として注目されています。
アクアフォトミクスを学ぶための第一歩
アクアフォトミクスに興味を持っている方は、まず「水」や「光」に関する基本的な知識から学び始めることをお勧めします。
1.水と光の相互作用
アクアフォトミクスの基礎は、水分子が近赤外線にさらされたときの挙動を理解することです。まずは以下の知識を深めましょう:
- 水の構造:水分子のさまざまな形態(コンフォメーションや結合構造など)と、それらが異なる環境下でどのように変化するかを学びます。
- NIR分光法:近赤外線が水とどのように相互作用するかを探り、水のスペクトルについて理解を深めましょう。
YouTubeや教育記事で水の化学と近赤外分光法の入門チュートリアルを探してみたり、基礎的なアクアフォトミクスの論文から学び始めてみましょう。
アクアフォトミクスでは、近赤外分光法がその実用性と非侵襲性から広く使用されていますが、水の分子構造やダイナミクスを理解するための唯一の手法ではありません。赤外分光法(IR)、X線、ラマン分光法など、他の分光法も水の研究において重要な役割を果たしています。これらの技術はNIRSを補完し、さまざまな応用分野で水をより包括的に理解するための独自の視点を提供します。
2. アクアフォトミクスコミュニティに参加する
アクアフォトミクス研究者のグローバルコミュニティに参加しましょう。分光学、水科学、アクアフォトミクスに関するウェビナーやカンファレンスに参加します。アクアフォトミクスYouTubeチャンネルを訪れ、過去のカンファレンスや専門家の講演の動画をご覧ください。
アクアフォトミクスは多くの応用分野を持つ新しい科学ですので、どなたでも興味を持って学び始めることができます。科学の基礎を学びながら、新しい視点で水と光の相互作用を通して新たに見えてくる世界の旅をぜひ始めてください。