動く水:流れが水の分子構造をどう変えるか — オープンアクセスの新論文

自然界の水は、川や配管、そして生き物の中など、ほとんどの場合動いています。しかし、水の分子構造に関するこれまでの研究の多くは、静止した水を対象に行われてきました。ゆの里アクアフォトミクスラボと神戸大学の研究チームは、近赤外(NIR)アクアフォトミクスを用いて、流れている状態の水を観察するパイロットスタディを行い、その成果がオープンアクセスで公開されました。

論文「Aquaphotomics Investigation of Flow-Induced Changes in Water Molecular Structure」は、MDPIの学術誌『Water』に掲載されています。

流れる水を測る新しい方法

研究チームは、温度管理機能を備えた独自のフローセルシステムを開発し、水が測定セルを通過する間の近赤外スペクトルをリアルタイムで記録しました。新しい水が常に流れ込むため、静止した試料を長時間測定する際に生じる光照射の影響の蓄積も抑えることができます。

精製水と天然ミネラルウォーターを、静止状態から毎秒10 cmまでの4段階の流速で測定し、水の第一倍音領域(1300〜1600 nm)のスペクトルを多変量解析とアクアグラムで解析しました。

本研究で使用した独自のフローセルシステム。図:Takagi et al., Water 2026, 18, 2459, CC BY

研究の結果

  • 流速が上がるにつれて、どちらの水でも水素結合の強い水の構造が増え、試料の温度もわずかに低下しました。
  • 天然ミネラルウォーターは、流速の変化に対してより滑らかで協調的に応答し、流れのある状態では温度が顕著に安定しました。
  • 精製水は、特に小さな水クラスターにおいて、より不規則な応答を示しました。
4つの流速条件における精製水(PW)とミネラルウォーター(MW)のアクアグラム。図:Takagi et al., Water 2026, 18, 2459, CC BY

著者らは、ミネラルウォーターの安定したふるまいについて、溶け込んだミネラルがイオンの周りに安定した水和殻を形成するためであると考えています。そして、流れは水を運ぶだけのものではなく、水の水素結合ネットワークを調節する「分子レベルの調節因子」であると述べています。

この研究の意義

この「フロー・アクアフォトミクス」の手法は、動いている水のシステムをリアルタイムかつ非破壊で調べる方法となり、水質評価などへの応用が期待されます。2種類の水と4つの流速条件によるパイロットスタディとして、今後より多様な水や流れの条件で研究を進めるための基盤となるものです。なお著者らは、分子レベルの解釈はアクアフォトミクスで確立された吸収バンドの帰属に基づくものであり、ラマン分光法などの補完的な手法による確認が有用であるとしています。

論文情報

Takagi R., Stoilov A., Sasaki T., Shigeoka S., Tsenkova R. Aquaphotomics Investigation of Flow-Induced Changes in Water Molecular Structure. Water 2026, 18, 2459.

論文全文(オープンアクセス)はこちら:https://doi.org/10.3390/w18192459

図:Takagi et al., Water 2026, 18, 2459, CC BY